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最高裁判所第三小法廷 昭和56年(オ)674号 判決 1982年10月26日

上告人

草村誠

右訴訟代理人

青山友親

被上告人

興梠サツ

外七名

右八名訴訟代理人

由井照二

主文

原判決中、被上告人らの上告人に対する登記請求に関する部分を破棄し、右部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

上告人のその余の上告を棄却する。

前項に関する上告費用は、上告人の負担とする。

理由

上告代理人青山友親の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。そして、右事実関係のもとにおいて、訴外興梠元一が、上告人との間の昭和二二年七月一二日の売買により原判決別紙目録一及び二記載の二筆の土地(以下「本件二筆の土地」という。)の現地における土地範囲のうち同図面(一)記載の(イ)部分の土地及び同土地上の立木の所有権を取得し、次いで同じ上告人との間の昭和二三年一二月五日の売買により右土地範囲のうち残りの同図面(一)記載の(ロ)、(ハ)部分の土地及び同土地上の立木の所有権を取得し、その後右元一が死亡したことにより被上告人らが結局本件二筆の土地及び同土地上の立木の全部を承継取得したものであるとして、被上告人らの上告人に対する本件二筆の土地の所有権移転登記請求及び同土地上の立木の所有権確認請求はいずれも正当であるとした原審の判断は、是認することができる。論旨は、採用することができない。

しかしながら、職権をもつて調査するに、原判決は、被上告人らの上告人に対する右登記請求を認容するにあたり、本件二筆の土地のそれぞれについて昭和二二年七月一二日及び同二三年一二月五日の二つの売買を登記原因とする所有権移転登記手続を命じたものであるが、原判決の命じた右登記は、一筆の土地につき二つの売買を登記原因とするものであつて、実体法上ありえない物権変動を登記原因とするものであり許されないものといわなければならない。原審としては、さらに前記(イ)部分の土地及び(ロ)、(ハ)部分の土地の本件二筆の土地に対する対応関係を確定したうえ、(イ)部分の土地について昭和二二年七月一二日売買、(ロ)、(ハ)部分の土地について同二三年一二月五日売買をそれぞれ登記原因とする所有権移転登記手続を命ずべき筋合であつたのであり、前記のような所有権移転登記手続を命じた原判決は、登記に関する法令の解釈適用を誤つた違法を犯すものといわざるをえず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決中右登記請求に関する部分に限り破棄を免れず、右部分についてはさらに審理を尽くす必要があるから、右部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(寺田治郎 横井大三 伊藤正己 木戸口久治)

上告代理人青山友親の上告理由

一 第二審判決は次に述べる理由により破毀さるべきものと思料する。

二 上告人(第一審被告、第二審被控訴人以下同じ)と被上告人(第一審原告、第二審控訴人以下同じ)間の昭和二二年七月一二日第二審判決添付図面Aの部分(上告人主張の(イ)部分)につき、同二三年一二月五日同図面C部分(上告人主張の(ロ)の部分)につきそれぞれなされた売買契約(以下本件売買ともいう)の目的物は何れも上草(A部分の秣、C部分の立木)であつてその床地は売買目的には含まれていない。

第二審判決一〇枚目表第二行目から第四行目に「もつとも被控訴人は、元一と被控訴人との間に締結された売買契約は本件土地中(イ)の部分の上草、(ロ)及び(ハ)の部分の立木のみの売買であつた旨主張し」とあるは明らかな誤りである。

即ち上告人は(ロ)の部分については、床地は勿論、立木の売買も売買契約は締結していない旨第一審、第二審を通じて主張している。

三 而して、以上各日時の本件売買の目的物には何れも甲第三号証、第四号証に上草に限る旨の記載なきに拘らず上草のみの売買であつて床地は含まれていない理由として上告人は次の点を主張している。

即ち、

(1) 床地の売買であつたら所有権移転登記の関係上、売買目的土地の番地を記戴すべきに拘らず、甲第三号証には単に田原村大字五ヶ所字笹原の原野売却代金とあり、甲第四号証には単に物件ノ表示宮崎県西臼杵郡田原村大村五ヶ所字笹原池谷山林及び原野と記載されたのみである。

(2) 本件売買の締結された時期は大東亜戦争直後であり、自作農創設特別維持法の目的達成上農地に適する土地は農地にあてるため昭和二二年頃より山林原野等で農地に適するか否かを調査中であり、山林原野については上草のみを売買すべく床地の売買は行わぬように行政指導がなされていた(右主張につき、上告人の昭和五三年一〇月二五日附準備書面参照、立証につき被控訴人に対する昭和五四年一二月四日付尋問調書第8乃至第15問参照)、右のような指導があり、この指導の趣旨に従い本件売買の目的物所在の農山村においては床地売買が行われぬのが普通で、仮りに行われたとしたらそれは特別の理由による特例であると思料するのが相当である。

(3) 昭和二三年一二月五日付本件売買契約時には既に目的物たるC部分は国に未墾地買収されていた。自作農創設優先の右売買時に一旦国に買収された土地が地主に売戻されることは予想出来ぬことで、床地の売買は考えられない。

第二審判決の民法第五六〇条の他人(国)の土地の売買など考えられぬことでこの売買において売買の目的物は立木のみであつたのである(被控訴人の昭和五四年一二月四日付尋問調書参照)。

(4) 最後に本件売買の目的物は上草のみで床地を含んでいないとする理由として、上告人が一審以来主張しているのは売買値段からする理由である。

即ち、昭和二二年七月一二日の売買値段の四、五〇〇円はA地区の上草即ち秣五ヶ年分、昭和二三年一二月五日の売買の値段三五、〇〇〇円はC地区の立木の値段である。

第一審証人江藤満の証言特に第4項乃至第17項、上告人(被告)の供述、第二審における被控訴人、成立に争なき乙第二証によりその成立を認められる乙第一号証を総合すれば上告人の右理由を認めることが出来る。

(5) 本件土地のうちB地区についてはその床地は勿論立木も上告人より控訴人等先代元一に売却されていないことは第一審における安達マスヨの証言、上告人の第一審(被告)、第二審(被控訴人)の供述により認められる事実である。

四 以上を要するに第二審判決には第一に前項(4)の上告人の主張について判断せず、又第二にA地区、C地区についての本件売買が床地を含むものとする認定及びB地区についての売買が成立したとする認定は採証の法則に反するもので破棄さるべきものである。

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